易経くじ

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易経とは何か

易経とはなにか

起源と展開

『易経』は五経のひとつで、数千年にわたり蓄積された統計をもとに、森羅万象の生成、変化、消滅の法則を説いた思想体系です。ちなみに五経はこの易経に『詩、書、礼、春秋』を合わせたものであり、これに、『大学、中庸、論語、孟子』の四書を加えた『四書五経』は中国のみならず、朝鮮、日本、ベトナムといったアジア文化圏の儒教のバイブル、精神的支柱となり、長い歴史のなかで広く社会と文化に深く浸透しました。

易は殷の時代、自然の変化を理解し、農業を計画的に営む知恵として生まれました。当時は亀の甲を焼いて、そのひび割れの形で吉凶を占っていました。甲骨文や金文に記されたト辞(ぼくじ)はその実践を示すものであり、その意匠は漢字の起源にもなりました。

周の時代に入ると、亀甲のかわりに蓍(めどぎ)という多年草の茎を用いる方法が編み出され、数で占う方法に進化しました。これが後に竹によって代替され、今日の筮竹となります。現代は、筮竹だけでなく、サイコロやコインでも易を占うことができます。爻辞、卦辞、卦画に基づく周代に体系化された易の形式こそが『周易』と呼ばれ、今日、わたしたちが親しんでいる易の原型です。

時代が進むにつれて、自然に対する知識が増え、易は次第に神意を問う占いから、意思決定や判断のための哲学としての性格が強まってきました。この変化には、儒教、道教、仏教などの思想体系や、朱子学、老荘思想、禅仏教などの哲学的潮流が深く関与しています。孔子は易を占いでなく人生の指針として捉え、その変化の法則を深く理解し、人生に活かすことでより良い未来を切り開けると考えました。「韋編三絶」(いへんさんぜつ)とは、晩年の孔子が『易経』に傾倒し、学ぶために何度も何度も繰り返し読み込んだため、本を綴じるひもが三度も切れてしまったことから生まれた故事成語です。中国史を貫く易姓革命(天子の徳が衰えると、天命は変わり、他の姓の人物が天子となる)という思想は、易経の第49卦『沢火革』から生まれたものですし、「一陽来復」(よくない事の続いた後にいい事がめぐって来る)という故事成語は、陰の中から陽が顔を出す第24卦『地雷復』にちなんだものです。

その影響力

易経は飛鳥時代から奈良時代にかけて(7〜8世紀)日本に伝わったとされています。律令制度のもとでは陰陽寮(おんみょうりょう)という役所が設けられ、国家運営に易経が活用されていました。安倍晴明(あべのはるあき)は平安時代、当時の政界に多大な影響を与えた陰陽師として知られています。

時代が下り、武士の世となると、易学は教養や人生哲学を学ぶ書となりました。江戸時代には、加藤東畡(かとうとうがい, 1670-1736)などの儒学者が易学の体系化を進める一方、新井白蛾(あらいはくが, 1715-1792)が、易占の簡略化を図る「略筮法」を考案し、処世術、実生活に役立つ知恵として易を広めることに貢献しました。幕末には外交官で実業家でもあった高島呑象(たかしまどんしょう, 1832-1914)が高島易断を考案、伊藤博文、大隈重信、西郷隆盛、大久保利通といった維新の元勲と交友し、さまざまな歴史的事象を予知しました。昭和になると、易学者で東洋古典の泰斗である安岡正篤(1898-1983)が吉田茂、岸信介、中曽根康弘などの歴代総理大臣や財界大物の精神的指導者として政財界に屈指の影響力をもちました。

易は17世紀ごろからイエズス会士により西洋にも伝わり、文化、思想、芸術に大きな影響を与えました。ドイツの哲学者、数学者でニュートンと同時期に微分積分法と二進法を編み出したことでも知られているライプニッツ(1646-1716)は、易の卦が0と1を並べる二進法による記述になっていることに驚き、これが中国で紀元前から使われていることに衝撃を受けました。ライプニッツは易経を絶賛し、二進法についての論文を発表しました。

また、20世紀になると、ドイツ人宣教師のリヒャルト・ヴィルヘルム(1873-1930)が易経をはじめてドイツ語に翻訳しました。これを紹介されたスイス人の心理学者カール・ユング(1875-1931)は、易経の研究を通じ、因果律とは異なる「共時性(シンクロニシティ)の原則」の存在を主張しました。ユングの名声をテコに易経は西洋でも大きく広まっていきました。

ドイツの作家ヘルマン・ヘッセ(1877-1962)は易経の「蒙」卦にまつわる小説『ガラス玉遊戯』でノーベル文学者賞を受賞しました。現代作曲家のジョン・ケージ(1912-1992)は偶然性の手法として易経の六十四卦を用いた『Music of Changes(易の音楽) 』を1951年に発表しています。

易断が示すもの

ちなみに、「易」という字は変化を意味します。あらゆるものは時間のなかで常に変化、進化し、一つの場所にとどまっていません。ただ、その変化にには一定のルール、陰陽のリズムがあります。ですから『易経』は英語で"Book of Changes(変化の書)"となります。

卦には剛と柔、陰と陽の区別があります。そして得られた卦象には、見えないいくつかの卦象が含まれています。一見、対立しているように見えるそれらの形象は、物事の裏の意味、視点を変えることで見える姿や、時間に伴う変化を示唆しています(卦の見方)。

人間はその人生のなかでさまざまな難しい問題に直面し、それに立ち向かっていかなければなりません。目先にとらわれず、できるだけ長い目で見ること。物事の一面にとらわれず、多面的に見ること。そして、何事も枝葉末節にとらわれず根本的に考えること。「易経」の占断は、直面する難しい物事に対してわたしたちがこうしたやり方で理解と包容力を深めるべきだと指南してくれるのです。

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